
創業と初期の活動
扇屋は、大正15年(1926年)に那須街道沿いの
湯本で創業しました。当初は、茶屋のような商いを
しており、観光地である那須高原に訪れる人々に軽
食を提供する店として営業を開始しました。那須は
温泉地として有名であり、観光地としても発展して
いったため、扇屋もその発展に合わせて商いを広げ
ていきました。

戦中・戦後の困難と再起
扇屋は戦中、物資不足の影響を受けて一時的に営業
を休止しました。しかし、昭和25年(1950年)
に再開し、翌年には那須御用邸への納品が許可され
商いを再開します。戦後の混乱を乗り越える中で、
物資不足や経済的困難が続きましたが、扇屋はその
時期を耐え抜きました。その後、昭和27年に那須
御用邸への出入りが許可されたことが、扇屋にとっ
ての転機となり、御用菓子を提供する商店として名
を広めることができました。
扇屋と皇室との深い関わりが始まったのは、昭和27年。那須御用邸へのお菓子の納品が許可されたことから、扇屋は皇室の方々が那須御用邸に滞在される際の「御用菓子」の供給を担当することとなりました。これにより、扇屋のお菓子は皇室の方々のもとへと届けられ、その名は広まりました。
那須御用邸は、人里離れた森の中に位置し、日常的に必要な物資の調達に困ることも多かったため、扇屋は単にお菓子を提供するだけではなく、日用品の取り扱いなども行い、皇室の方々や警察の方々が快適に過ごせるようにサポートしていました。こうした信頼関係の中で、扇屋の存在はさらに深まっていきました。
昭和の後半になると、御用邸内の売店での業務は次第に必要がなくなり、60年代には撤退しましたが、それでも扇屋の皇室とのつながりは途切れることはありませんでした。「御用命舗」としての名誉は今も受け継がれ、「那須御用邸御用命舗」という名称を現在も大切にしています。この名称を使用できるのは、扇屋だけという特別なものであり、常にその名に恥じぬよう、商品やサービスには細心の注意を払い続けています。
特に、扇屋が誇る「御用菓子」は、那須御用邸にちなんだものが多く、各お菓子には皇室にまつわる物語が込められています。これらは単なる和菓子ではなく、皇室への敬意と感謝の気持ちが込められた特別な存在です。そのため、パッケージのデザインや商品名一つ一つにも、慎重な配慮がなされています。
昭和二十年代から那須御用邸御用達となった扇屋では、皇室へのお菓子の納品が大切な役割を果たしていました。ある年、宮内庁大膳課からの注文が二度も入り、扇屋のおまんじゅうが再び皇室に召し上がられることになりました。このように、扇屋は細心の注意を払って製品を作り、皇室の方々の信頼を勝ち得てきたのです。
特に、その年に注文された黒砂糖の温泉まんじゅうは、皇室の方々にも非常に好評であり、「前回と同じものを作ってほしい」という要望が再度あったことは、扇屋にとって大きな誇りとなりました。